文明の十字路 トルコ紀行
キリム
とても絨緞は買えないのでトイレ休憩で立ち寄った土産物店で絨緞よりは安価なキリムのソファー・カバーとクッション・カバー、それにお土産用のショルダー・バッグを買った。
帰国してインターネットで検索してみると驚くほど高いのに驚かされた。トルコでは日本の販売価額の四分の一から十分の一であった。
キリムは絨緞と並ぶトルコの伝統的な織物で、古くから西アジアの遊牧民によって織られてきた平織りの織物でパイル糸を結ぶ絨緞より古い歴史が有ると云われている。イスラム諸国では祈りの時に敷く敷物として利用されている。
トルコ人が羊を追って遊牧生活をおくっていた頃のキリムは経糸にウール、緯糸にウールか駱駝の毛を使って織り上げていた。
セルジューク・トルコがアナトリアを征服し西アジアから移住してきたトルコ人はアナトリアで半農半牧の定住生活を始めコットンに出会うと、経糸は丈夫なコットンに変わった。
現在のキリムは経糸にコットンを使用し緯糸にウールを使って織られている。高級なキリムは緯糸にシルクが使われている。
キリムは母から娘へと長い歴史の中で継承されてきた単純な平織りから、工夫を重ねて緯糸の掛け方に様々な技法が考え出され、現在見る大胆な色彩と幾何学的な紋様を織り出す事が出来るようになった。
キリムの色彩と紋様を織り出しているのは先染めした緯糸である。経糸が隠れるほどしっかりと緯糸を筬打(おさうち)して織り上げたキリムは軽くて丈夫で肌触りが良く、敷物、バッグ、小物入れ、ソファー・カバー、クッション・カバー、等々に加工されている。
昔は草木染めの糸を使用して織り上げていたが近年は化学染料で染めた糸が主流となっている。織り方も絨緞の様に図面に合わせて段数や目数を数えて織ると云う概念が無く目測で織って行く大雑把な織り方である。それが素朴な味を引き出している。
土産物店で同じ図柄のクッション・カバーを探したがサイズも図柄もどこか微妙に異なり、同じ図柄の品物は見つけ出せなかった。斯様に手織りのキリムの図柄は織り手によって多種多様に変化し、同じものは二つと無いのかも知れない。